画家・田中千智さん

島の素敵なアトリエを訪ねました。

グリコダイレクトショップではこの夏、画家・田中千智さんの描き下ろし作品が、2つのギフト商品の「顔」になりました。
田中さんの制作の拠点、福岡県・能古島のアトリエを訪ねて、制作活動の様子や想いをうかがいました。

福岡市内の港からフェリーに揺られること10分、博多湾に浮かぶ小さな島「能古島(のこのしま)」に到着しました。アトリエは海からすぐ。田中さんが、ニコニコとチャーミングな笑顔で迎えてくださいました。

波の音や船の汽笛が聞こえてくる、とっておきの環境ですね。

田中さん:1年半ほど前、天神のビルからこちらに制作拠点を移しました。自宅からアトリエまで、船に乗って通っています。海の上から見える風景や砂浜で眺める街の遠景は、どれも美しく静かです。こちらに来てから、目の前にあるものを新鮮な思いで描くことが多くなりました。

写真はアトリエ近くのカフェ。島を歩いていると、気軽に島民に声をかけられる田中さん。すっかり、島に馴染んでいらっしゃいます。

田中さん:息子は、島の小学校に通っているのでお母さん仲間もいますし、島で面白い取り組みをしている方も多いので、自然と輪が広がっています。子供の身長ほどの太刀魚を格安で購入して、夫が趣味の料理でカレーにするなど、島ならではの生活も楽しんでいます。

田中さんの作品に直接対面すると、漆黒の背景の深さに驚きます。背景は、アクリル絵の具で何層にも塗り重ねられ、丁寧に漆黒の世界を生み出しています。

漆黒の吸い込まれるようなフラットな背景に、油彩で鮮やかに浮かび上がる人物や風景、時には空想の世界も。愛らしく微笑んでいるのか、悲しんでいるのか、どちらにも捉えられる人物の表情は、見ているこちらの心を映し出されているような感覚に。一目で田中さんの絵だと分かります。

田中さん:作品にもよりますが、微笑と不安や怒りの真ん中のような顔にしたいと思っています。性別や国籍、年齢も曖昧なままにして、皆さんが想像していただければいいかな、と。子供にはママの絵はいつも眠たそう、とか言われています(笑)。


今回のダイレクトショップの描き下ろしは、田中さんの作品として特殊でしたね。

田中さん:モノトーンで商品の絵を描くのはほぼ初めての取り組みだったので、結構大変でした(笑)。(出来上がったコットンバッグを手に取りながら)でも楽しかったです。こうして形になると嬉しいですね!「手に取る人の気持ちを考える絵」を描くことは、やりがいがありました。バッグはこの夏、私も使います!

田中さんは、小学校2年生、5歳、4歳の3人の男の子のお母さん。絵に向かうときとお母さんの時間は、気持ちを切り替えていらっしゃいますか。

田中さん:すごく意識しているわけではないけれど、フェリーに乗って海を渡っている間に何となく気持ちが切り替わりますね。男の子3人の朝の登校・登園の準備を終えた後は、毎朝、もう疲れ果てて抜け殻みたいになっています(笑)。でも子供に助けられることもあって、大きな壁画*の制作に行き詰まった時に、「いい絵描けてるよ」と褒めてくれたりします。

*《生きている壁画》2023年1月末に第1段階、2024年1月に第2段階、2025年1月に第3段階の加筆を行い完成した。2025年12月末まで福岡市美術館で公開される。

息子さんたちも、絵を描くのが好きですか?

田中さん:自由帳を常に用意しているので、自分のタイミングで好きな時に描かせています。「もったいないページの使い方をしているな」と思う時もありますが、子供なりの理由があるので「ぐっ」と我慢しています。あと、たまに私の使っているペンや画材を使っていることもありますが、描き心地がよいのか、大胆に描いています。大切に使って欲しいのですが、ペン先がボサボサに潰れてしまうので、本当に大事な画材はこっそり隠しています。


田中さんがこれから挑戦してみたいことはありますか。

田中さん:予備校時代に大阪に住んでいて思い出も多く、いつか関西で展覧会をやってみたいなと、心に温めています。子供が生まれる前に比べると、ゆったりしたペースではありますが、変化も楽しみながら制作を続けていきたいと思います。


インタビューを通して、田中さんの自然体で穏やかな語り口の中に、確固たる意志を感じました。生み出される作品は、そんな田中さんの佇まいそのもの。どんな感情も否定せず、見る人に寄り添います。

この夏はぜひ、田中さん描き下ろしのオリジナルデザインを、大切な方のギフトにお役立てください。あ、でも、本当はご自分のために、が一番おすすめです。

田中千智さんプロフィール

福岡を拠点に活動する画家。1980年兵庫県生まれ、福岡県糸島市育ち。中学生の頃から油絵を描き始め、1998年に九州産業大学付属九州高校デザイン科を卒業、2005年には多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻を修了。2006年より本格的に福岡で画家としての活動をスタート。
アクリル絵具で描かれた漆黒の背景に、艶やかな油彩で人物や風景を浮かび上がらせる独自の手法が特徴。笑みとも怒りともとれる人物の表情や、漆黒の中にきらめく風景など、相反する要素が組み合わされ、観る者に強い印象を与え、その想像力をかきたてる。
これまでに国内外で多数の展覧会を開催。韓国、シンガポール、台湾、イギリスなど海外のアートフェアや展覧会にも出品を重ねている。近年は、書籍の装丁画、新聞の挿絵、商品のパッケージデザイン、大型イベントのメインビジュアルなど、絵画の枠を超えて多彩に活躍中。
2019年には西日本文化賞奨励賞、2024年には福岡県文化賞奨励賞を受賞。現在、福岡市美術館で巨大壁画《生きている壁画》が展示公開されている。(2025年12月末まで)